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解析事例−t7EXAMPLE-t7

点接触時のスピンによる温度、摩擦への影響

スピン時のEHL解析事例e6では、文献(*)を採り上げましたが、本事例では、同じ事例に対して、TEHL解析を実施し、スピンが温度・摩擦に与える影響を調査します。

事例e6の最後に速度分布を掲載しましたが、スピン速度が小さくてスピンの影響が出にくいため、本事例では、スピン速度を以下のように、アップさせて計算します。
   2500[rad/sec] --> 12000[rad/sec]にアップ

(*)M. Taniguchi, D. Dowson and C. M. Taylor, "The effect of spin motion upon elastohydrodynamic elliptical contacts," Proceedinfgs of the 23rd Leeds-Lyon Symposium on Tribology " Elastohydrodynamics - '96 Fundamentals and Applications in Lubrication and Traction", Leeds 10-13 September 1996, Tribology Series, vol. 32, Elsevier, pp. 599-610, 1997.
または、谷口雅人,「接触部のスピンを考慮したEHL解析」, NSK technical journal (664), 63-73, 1997-11.

スピン時には温度境界条件として、Carslaw & Jaegerの式を使用することができないため(スピンにより一定速度の条件を満たさない)、固体内部の温度分布計算を実施することによって与えます。

解析モデルを再度掲載します。但し、事例e6で述べたように、文献での物体形状等が不明のため、同等になるように推定した諸元です


  接触物体形状:半径23.2mmの球(Rx=Ry=23.2)と半径28mmの直線溝(Rx=0,Ry=-28)
  物体速度(u0):両物体とも 14.5 [m/s](すべりなし)
  スピン量(ωs):0と12000 [rad/sec]

  負荷荷重 :1100 [N]

  大気圧粘度(η0) :0.037 [Pa・s]
  圧力-粘度係数(α):1.6×10-8[1/Pa]
   (文献では1.84×10-8との記載があるが、EHLパラメータを一致させるため、推定値を使用)
  温度-粘度係数(γ) :0.042 [1/k]
  潤滑剤大気圧密度(ρ0):850 [kg/m3]
  固体密度(ρs)     :7850 [kg/m3]
  熱膨張係数(β)  :0.00065 [1/k]
  潤滑剤比熱(cf)  :2000 [J/kg・k]
  固体比熱(cs)   :460 [J/kg・k]
  潤滑剤熱伝導率(kf):0.14 [w/m・k]
  固体熱伝導率(ks) :47 [w/m・k]
  圧力-密度係数(C1):0.58 [1/GPa] (Dowson-Higginson密度式の係数)
  温度-密度係数(C2):1.68 [1/GPa] (Dowson-Higginson密度式の係数)
  入口部温度(t0)  :303 [k]

  Eyring粘性の特性剪断応力:10 [MPa]

  固体厚み(dA):1.5a (a:接触楕円長径半径[m])
  固体厚み(dB):2.0a (a:接触楕円長径半径[m])

  粘度 :Roelandsの粘度式(指数z0=0.57, s0=1.1)
  密度 :Dowson-Higginson密度式

  メッシュ:65×33×11

<解析結果>

1.物体表面速度

スピンしている物体1の表面速度ベクトル図を図1に示します。図の下方向がX方向、左右方向がY方向です。事例e6の表面速度では逆流が発生していませんでしたが、下図では右側で逆流が発生していることがわかります。

            図1 12000[rad/sec]時の物体1の表面速度 (TEHLAC出力)

なお、図1は図2に示す、X方向速度と、Y方向速度を合成したものです。
図2では(a)物体1のx方向速度が重要です。これは物体1の速度にスピン速度が加わったものになりますが、今回の条件では、図からわかるように、
Y=1.0で速度がほぼ0になっています。今回無次元化に使用した接触楕円長さaは1.2696E-03[M]であるため、Y=1のときは、Y=1.2696E-03[M]に対応します。スピン量ωs=12000[rad/sec]の場合、a・ωs=15.232[M/sec]であり、物体1の速度14.5[M/sec]との差は0.732「M/sec]で、これを速度u0=14.5[M/sec]で無次元速度にすると、0.732/14.5=0.05とほぼゼロであり、Y=1.0でX方向速度がゼロになることが理解できます。

 
        (a)物体1のx方向速度           (b)物体1のy方向速度
              図2 12000[rad/sec]時の物体1のx, y方向表面速度


2.油膜厚さ
油膜厚さの分布を図2に示します。図の左から右へ向かう方向がX方向、上下方向がY方向です。左図は等高線図、右図は立体図です。最小油膜厚さは、Y=1.11mm近辺で発生しており、事例e6と同じ位置で発生しています。この位置が面圧のほぼ終端部であり、スピンによる速度低下の影響を一番受けるため、この位置が最小油膜厚さ位置になると考えられます。
    
             図3 油膜厚さ等高線図(12000rad/sec)


3.温度分布
温度分布としては、全体の状況を把握するため、平均温度Tmを使用し、下図に表示します。

  
             図4 無次元平均温度Tm(12000rad/sec)

スピンがあるときの温度分布は、図4のように、複雑なものになりました。これを理解するために、y=-0.75, 0.75の2箇所で、油膜中の状況を考えていきます。ちなみに、Y=-0.75位置はTmのピーク位置に対応していますが、温度のピーク位置は、面圧の大きさや滑り速度の大きさにより決まるものと考えられます。

       
         図5 Y=-0.75, 0, 0.75 位置の無次元平均温度Tm(12000rad/sec)

まず、すべり量について考えます。図4右図の下側に対応するY=-0.75位置では、物体2は無次元速度U=1.0(14.5 [M/s])の速度で運動しており、物体1は図2(a)のように、これより高速で運動しており、数値的には無次元速度で1.788です。このため、すべり量は0.788です。一方、Y=0.75位置では、図2(a)より物体1で逆流は生じていません(逆流が発生するのはY>1.0の場合です)。数値的には無次元速度で0.212です。このため、すべり量はY=-0.75位置と同じで、0.788です。
すなわち、Y=-0.75では、物体1が物体2より速い状態で速度差が0.788、Y=0.75位置では、物体1が物体2より遅い状態で速度差が0.788という状況にあります。
このとき、発熱量はどちらが大きいか、ということになりますが、速度の値の大きい方がより多く発熱すると考えられます。TEHLACの出力である粘性発熱量をグラフ化すると、図6の結果が得られました。平均温度Tmは、粘性発熱項以外に、対流項、伝熱項、圧縮断熱項の影響を受け、かつY方向速度の影響や、境界温度Ta,Tbの上昇度合の影響もあるため、一概に、その定性的傾向を言い切ることはできませんが、粘性発熱項は、スピンが発生している場合のピーク温度の発生に大きく影響していると考えられます。
  
                    図6 粘性発熱量(12000rad/sec)


4.摩擦力
ω=0とω=12000[rad/sec]時のX方向摩擦力分布を図7(a)(b)に示します。(a)(b)を比較すると、発生する摩擦力には、10倍以上の差があることがわかります。また、スピンがある(b)では、主に、Y<0側が正、Y>0側が負の摩擦力が発生しており、上述の速度分布から納得できる結果になっています。

  
                        (a)ω=0 [rad/sec]

  
                     (b)ω=12000 [rad/sec]

               図7 スピン量の違いによる物体1摩擦力分布の違い

次に、ω=12000[rad/sec]時の摩擦力を定量的に把握するため、Yの定位置での値を図8に掲載します。ちなみに、Y=-0.75は正の摩擦力の最大値、Y=0.375は負の摩擦力の最大値が発生している位置です。Yの符号が逆である位置同士の値を比較すると、摩擦力の符号は逆で値はほぼ同じ結果になって互いに打ち消しあっていますが、完全に打ち消しあうということではなく、この差が摩擦力となって表れるものと考えられます。ちなみにω=0,Y=0の摩擦力もプロットしていますが、その値は非常に小さいことがわかります。

        
               図8 ω=12000[rad/sec]時の物体1の摩擦力

最後に、ω=0とω=12000の摩擦力を図9に示します。この値は、物体表面に発生するX方向摩擦力(剪断力)を積分した値であり、物体1に作用する摩擦力を表しています。ω=12000[rad/sec]時はω=0[rad/sec]の約5倍の摩擦力となっていることがわかります。

         
             図9 スピン有無の違いによる物体1摩擦力の差


以上のように、TEHLACはスピン発生時でも、温度分布、摩擦力分布計算が可能です。

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